孫琳の個人書店

自作小説を公開していくだけの素朴なブログ


目を開けたそこは、光で埋め尽くされていた
目の前に無数にある、ライト
周りを見回したくて、顔に力を入れても、まったく動いてくれない
どうやら固定されているみたいだ

ここは、どこだ・・・・・・・・・・・・?

「恐らく・・・・脳波・・・・・影響」
「・・・・・・・・・廃棄処分・・・・・・・・・」

ん・・・・・・・・・?
頭の霞が晴れていくにつれて、徐々に周りの音が聞こえるようになってきた

・・・・・・・・・・・・何か聞こえる

「ダメだ・・・・・・・・・・・・・・・」

この音は、言葉だ・・・・・・・・・
男・・・・・・・・?
何を・・・・・・話しているんだろう・・・・・・・・

「何がいけなかったんだ!?」

「気にするな・・・・・・・・・それよりも失敗の理由を調べなければ」

「そんな悠長なことを言ってる場合か!?俺らも処分されるんだよ!!」

「・・・・・・・・・・」

「くそっ!全部こいつのせいだ!!」

こめかみに硬くて冷たいものが触れる感触がした

接した部分から冷たさが伝わって心臓に届いた瞬間
ドクンとひと鳴り、喚起、いや歓喜した

「じゃあな」
パンッという乾いた音が耳元で響く

あれ・・・・・・・・・・・・おかしいな
何処に向けて撃っているんだ・・・・・・・・・・・・?

「俺・・・・・・・・・今、撃ったよな・・・・・・・・・・・・?」
「撃った・・・・・・・・・・・・・・・」
「弾・・・・・・・・・当たったよな・・・・・・・・・・・・・?」
「ああ・・・・・・・・・・・・・・・」
「まさか、お前・・・・・・・・・・・・うわぁぁぁぁあああああ!!」

いつの間にか、視界から光は消えていた

「昨夜未明、東京○○区の○○で変死体が見つかりました。この死体の身元は未だ不明で、警視庁は殺人事件として対応し早急に対策本部を設置する予定です。VTRどうぞ」

「え〜この犯人は死体を十数片に解体する猟奇殺人者的な面と、体の関節に沿って、綺麗に解体する技量のある、非常にまれなケースです。恐らく軍隊出身者か、医者か、どちらにせよ人体構造の知識の深さがうかがい知れます。
警察としては、何よりもこの犯人を逮捕する事を優先的に行動し、これ以上の犠牲者を出さぬよう、尽力するとともに・・・・・・・・・・・・・・」





「ジョン!何だ!?この生物は!」
「わからない!わかるのはとてもやばそうだってことだけだ!」
「そんなの見てればわかるぜ!ジョン」
「ヘイボビー。まだ軽口叩ける余裕はあるようだな。ピストルは持っているか?」
「当たり前だろジョン。あいつの頭を打ち抜いてやるぜ」
ボビーは銃を構えて必死に狙いを定めている
「ボビー早くしてくれ!俺がやられそうだ!」
パンッと乾いた発砲音が辺りに響き渡った
「ハッハーどんなもんだ、化物め!」
「やったなボビー!さすがテキサスのジャッカルと言われる男だぜ!・・・・・・・・・ん?どうしたんだ?そんな青い顔をして」
「ジョォォォォン!逃げろ!奴はまだ生きてる!」
「ハッハー。そんな冗談はよせよ。頭を打たれて生きている生ぶっ・・・・・・・・・」
無音でジョンの頭は後ろから来ていた生物によってもぎ取られてしまった
ジョンの頭は体から離れ、化け物の手の中に収められている
化け物はその頭を口に運び、めしゃりめしゃりと咀嚼している
「ジョォォォォォン!!この野郎!殺してやる!!」
そう叫んだボビーが銃を化け物に向かって乱射するが、化け物は銃弾が当たった所でひるまず徐々にボビーに近づいていく

カチン、カチン
考え無しに打ちすぎたせいで化け物がすぐそこに来るころには銃は弾切れを告げていた
「シット!」
必死にボビーは逃げようとするが、無駄な抵抗だった

グシャと言うグロテスクな音声と画面に広がる床に流れる大量の血

画面は切り替わり、画面の中心にいる科学者風の男がガッツポーズを決めて、一言

「怖いよね!『マーダー』」

ガッツポーズは決まったまま、スタッフロールとともに、爆笑(?)NG集が流れていく

その時、柊カオルは本当の沈黙を知った
爆笑NG集には失笑すら起こらず、一瞬、僕以外にこの教室には人がいないのではないか、と勘違いしてしまうくらいだ

NG集が終わり、画面が暗転しても、十人程度いるはずのこの教室は先ほどの静けさを保っている

その静寂を打ち破る、コツコツという音を発しながら、教務官が前に現れた

「はい、今の怪物が君たちがこれから戦う相手「マーダー」ですね。君たちはこれからスラウター候補生から正式に「スラウター」となるわけですけども・・・・・・・・・・・・」

これは長くなりそうだ・・・・・・・・・


「ということでね、解散!」

やっと終わった・・・・・・・・・・・

教務官のありがたくそして長いお言葉が終わり、ようやく息苦しさが抜けた
でも、ほっとしたのも束の間
次には、支部長室に挨拶に行かなければならないことを思い出した

しかし訓練所は、自分が配属された東京支部と同一の建物内なので、5分も経たずに支部長室がある
何かを考えるより前に、支部長室に着いてしまった

目の前には、見るからに重厚そうな黒い扉
先ほどの陳腐な映画と長々しい挨拶のせいで緊張感が失われていたが、こうして「支部長室」と書かれた扉の前に立つと感慨深くなる

今日から俺もスラウターか・・・・・・・・・
やっぱり訓練所とは勝手が違うんだろうな〜・・・・・・・・・
まぁ何はともあれ、頑張らなくては!

新たな決意を胸に柊カオルは「支部長室」と書かれたドアに入っていった



「今日から東京支部に配属される事になりました、柊カオルです!よろしくお願いします!」

顔を上げた先には神妙な面持ちで座っているおじさんがいた
顔にはたくさんの傷やしわが刻まれており、その人が歩んできた人生の深さがうかがい知れる

「君が柊カオル君か。私は東京支部支部長の長谷川だ。ひとまずスラウター就任おめでとう。はいこれ、コート。今日からスラウターだという証」

重い・・・・・・・・

受け取ったコートには、重さが感じられた
それは、腕にというよりも、胸の奥深い部分の方に責任と形を変えてのしかかっていた

「ありがとうございます!」
「それで君は今日から、「マーダー」を狩る人間「スラウター」の一員となった訳だけれども・・・・・・」
「あの〜・・・・・・一ついいですか?」
「ん、なんだい?」
「マーダーってどんな生物なんですか?」
「え!そんな事も知らないの!?・・・・・・ったく最近の訓練所は何を教えてるんだ・・・・・・」

ほんとだよ・・・・・・・・・

「いえ、マーダーが人間を捕食して生きる生物だってことは知ってるんですけど・・・・・・性質とかはあんまり・・・・・・」
「うん、まぁそこら辺の事は先輩に聞きなさい。・・・・・・そうだ!君の教育係を決めなきゃ!誰が良い?」

「いや・・・・・・誰が良い?って聞かれても知らない人ばかりですし・・・・・・」
「そりゃそうだな。それじゃあ・・・・・・」

コンコン 
ドアをノックする音が響き渡る

「失礼します」

入ってきたのは印象的な青年だった
格好を気にしないのか作務衣に身を包み、髪はボサボサで世捨て人のような身なりをしていたがまぁまぁかっこいい


だが特に印象的だったのは――――眼
切れ長の眼の奥に何かが潜んでいる
絶望、いやもっと深い―――――――悲しみ?

「あ、丁度いい所に。禄君!」
「・・・・・・何ですか?支部長。」
「君にこの子の教育係りを頼もうと思ってさ。」

長谷川さんの言葉に禄と呼ばれている青年は明らかに嫌な顔をした


「支部長・・・・・・俺がそういうの苦手なの知ってるでしょう・・・・・・」
「大丈夫!この子優秀だから!」

!!
もちろん長谷川さんと僕は初対面である
しかも実際に優秀ならいいのだが、そうではない僕としては変な期待をかけられるのははた迷惑でしかない

「ホントですか?支部長はどの新人にも優秀って言うじゃないですか・・・・・・・・・」
「うるさい!これは支部長命令だ!!」

外見からして部下に厳しいが理解ある上司を想像していたのだが・・・・・・・・


禄さんは聞こえよがしにボソッとつぶやいた
「逆ギレかよ・・・・・・・・・」

「ほら、早くミッションに行ってきなさい。」
邪魔者を追いやるかのごとく長谷川さんは僕らを急かす
「支部長、その前にミッションを頂かないと・・・・・・・・・」
「あ、そうだね。新人研修もあるし、出来るだけ簡単なやつがいいよね?」
「まぁその方がありがたいですね。」
「じゃあこれ、行ってきて。」 長谷川さんが書類を禄さんに手渡す
「え〜っと・・・・・・1stが2匹ですか・・・・・・これなら大丈夫そうですね」
「頼んだよ!」
「わかりました。失礼します。」と言い放つと禄さんは部屋を出て行ってしまった
あっという間のスピードで出て行く禄さんにあっけを取られていると長谷川さんに急かされた
「何してるんだ?君も行かなきゃ!」
「あ、はい!すいません!」

支部長室を飛び出し慌てて追いかけたが禄さんは扉を開けてすぐそこのところに立っていた
少し不機嫌そうに話しかけてくる
「・・・・・・・・・お前、名前は?」
「あ、はい!柊カオルと言います!」
「やっぱりスラウターになろうと思った理由は、親しい人がマーダーに殺されたから?」


まるで図星の事を言われて思わずギクリとしてしまった
何で知っているんだ?

「あ、はい。でもなんでわかったんですか?」
「そんなの一般人はマーダーの存在すら知らないこのご時世にスラウターになるには、これしかないだろ。」

あぁ・・・・・・・・・そりゃそうか・・・・・・・・・
ということは禄さんも・・・・・・・・・

「もしかして・・・・・・禄さんもですか・・・・・・?」
「いや・・・・・・俺は・・・・・・・・・」

禄さんは言いずらそうに口ごもる
よっぽどな過去があるのだろうか

「あ・・・・・・言いにくいこと聞いちゃいましたか・・・・・・?」
「いや・・・・・・別にいいんだけど・・・・・・・・・実は俺、記憶喪失なんだ。」
「へ・・・・・・・・・?」
「東京支部の前で倒れているのを支部長が見つけてくれたらしい・・・・・・それより前の記憶が一切ないんだ。」
「なら・・・・・・なんでスラウターに・・・・・・?」
少し突っ込みすぎたかなと思ったが、大して気にならないのか禄さんはあっけらかんと答えた
「何となく」

・ ・・・・・・・・・・・へ?
いとも当然の如く発せられたものは僕にとってとても信じられない言葉だった

「・・・・・・・・・何ですかそれ・・・・・・・・・」
「俺もよくわかんないんだよ。衝動というか気分というか・・・・・・・・・」

この人は気分で命を懸けてマーダーを殺してるのか・・・・・・・・・
命が惜しくないのかな・・・・・・・・・

「それで、話変わるけど・・・・・・・・・武器は何使ってんの?」
「一応ナイフですけど・・・・・・・・・」
ポケットからナイフを取り出した
禄さんはナイフから目を離さず呟く
「ナイフか・・・・・・・・・お前顔に似合わず近接戦闘タイプなんだな・・・・・・・・・」
「はい、それで禄さん。質問いいですか?」
禄さんはやっと顔を上げ、答える
「ああ・・・・・・・・・何?」
「さっき言っていた1stって何ですか?」
「お前そんなことも知らないの!?・・・・・・・・・どこも人員不足なんだな・・・・・・・・・」
「・・・・・・すいません・・・・・・」

訓練所の勉強なんて使わないと思ってたけど・・・・・・・・・
結構使うんだな・・・・・・・・・
ちゃんと授業受ければよかった

「しようがないな・・・・・・・・・マーダーは強さによってランク分けされてんの。弱い順に1st,2nd,3rdって。2ndぐらいまでならまだ俺でも太刀打ちできるけど、3rdははっきり言って無理だな。俺一人だったら一太刀どころか、かすり傷さえ負わせられねえよ。」
先程の支部長とのやり取りや、教育係になれることから推測するに多分禄さんはそれなりに優秀なのだろう
その禄さんがこれほどまでに言う3rdって・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・マーダーってそんな強いんですか?」
「まぁあいつら体の構造からして、全然違うからな。頭と胴が離れても半日はもつ。しかも人間に擬態できるからいつどこで襲われるかわからない。ホントやってらんないよな・・・・・・・・・」」
禄さんは肩を落としやるせないようにため息をつく
大変なんだろう

ただ禄さんの言いぶりだとまるでマーダーは無敵のように聞こえる
「そんなのどうやって退治してるんですか?」

「ココだよ、ココ。」禄は親指で自分の左胸を指す

「心臓ですか・・・・・・・・・?」
「正確に言うと心臓じゃないんだけどな。まぁ左胸を貫けばあいつらも即死するって覚えておいていいと思う」
やはり弱点のない生物なんていないんだ
「へ〜・・・・・・・・・」
「今の訓練所ってこんな事も教えてくれないのか?」
「いや・・・・・・・・・多分僕が聞いてなかっただけじゃないですかね?」
「お前・・・・・・・・・・・・まぁいいか。それじゃあ今からミッション地に行くけど、いいか?」

ドクン
心臓が高鳴る
今からマーダーを退治しに行くのか・・・・・・・・・
覚悟はしていたけど・・・・・・・・・やっぱり怖い
だけど・・・・・・・・・行くしかないだろ!

「はい!覚悟は出来てます!」
「そんな意気込まなくても大丈夫だって。1stなんてそこら辺の殺人犯と大して変わんないから。」

そうは言われても初のマーダー退治だ
自ずと緊張が体を支配していくが、いつもより速く、強く動けそうだ

心地よい緊張感と、ほのかな恍惚感

やっとマーダーを殺せる


「はい」
「ただ、心臓を貫かないと死なない事はよく肝に銘じておけよ。」
「はい!」
「それじゃあ行くか。」

これが初ミッションか・・・・・・
やっとサトシの敵が討てる・・・・・・
待っててくれ、サトシ

必ずマーダーを一匹残らず殺してやるから



「地図によるとここだな・・・・・・」
禄さんは地図を見ながらそうつぶやいた
「不気味なとこですね・・・・・・僕の廃墟のイメージにぴったりです・・・・・・・・・」

目の前に佇む建物は、映画で出てきそうな「廃墟」って感じで、こんな所が本当にあるのか、と感心してしまう
緊張を紛らわそうと禄さんに話しかける
「そういえばマーダーは人間が不気味だと思うところに好んで住みますよね・・・・・・・・・・なんか意味があるんですかね?」
「どうだろうな・・・・・・・・・」
禄さんは少し考え込んでいる
「あいつら人間そっくりに化けれるから、人間社会に溶け込もうと思うなら溶け込めると思うんですけど・・・・・・」


自分で言って恐ろしくなった

もし、マーダーがそんなことをし始めたら・・・・・・・・・

人間側の勝ち目はほとんど無くなると思っていいだろう
徐々に世界の人間がマーダーに変わっていく・・・・・・・・・
捕食した人間の変わりに人間社会に入って

「プライド、じゃないか?」
深い思考の闇に陥っているところに禄さんの声が聞こえた
「・・・・・・・・・プライドとは?」
「マーダーって人間を捕食するだろ。だからあいつらは自分達は人間より高等な種族だって思ってるんじゃないか?」
「あ〜・・・・・・あり得ますね・・・・・・」


でも、果たしてそんな理由だけなんだろうか?
プライドを捨てて人間を捕食しようとする個体も出てくるのではないのだろうか・・・・・・・・・
もしかしたら・・・・・・・・・もうすでに・・・・・・・・・

「まぁ今からどっちが高等か身をもって感じさせてやるけどな・・・・・・」
そんな心配をよそに禄さんが意気込む
心によぎった一筋の不安はかき消されたみたいに薄れていく
「ところで禄さんの武器って何なんですか?」
見たところ禄さんは武器らしきものを持っていない
「ん、ああ。俺の武器は・・・・・・これ。」
と言うと禄さんは自分の手を僕に向かって突き出した
突き出された手はパッと見女性のような艶かしい掌なのだが一つだけ異様な点がある
爪が異様に尖っている
決して長くは無いのだが、名刀のような一分の隙もない鋭さがあった
これほどまでに美しくて恐ろしい爪を僕は今まで見たことがない

「えっ!?素手なんですか?」
「いや、まぁ正確に言うと爪だけどな。」
「そんなんでマーダーを殺せるんですか?」
「いや〜・・・・・・何故だか知らないが俺、爪がそこら辺のナイフよりよく切れるからさ、まぁこのままでいいかなと思って」

・・・・・・・・・この人は人間か?

「・・・・・・・・・それ、おかしくないですか?」
「まぁ細かいことは気にすんな。」

いや、気になるよ!
と心の中で突っ込みを入れた瞬間、何者かが建物の中に入って行くのを目が捕らえた

「あっ!誰か建物の中に入って行きますよ!」
「おそらくマーダーだな・・・・・・よし、乗り込むぞ。」
「はい!」

・・・・・・・・・・カチャ

ドアノブをまわす音が耳にしみこんで脳内で反響した
普段聞きなれているこの音も、今聞くと、恐怖と緊張の旋律が含められている気がする

禄さんの後に続いていき、見えた扉の奥には多数の人間の死体が横たわっていた
どれも上半身が引きちぎれていた。恐らくマーダーが食したあとの残骸だろう
たまらず声が出てしまう

「うわぁ・・・・・・・・・グロテスクですね・・・・・・・・・」
禄さんはそんな僕の声なんて気にせず、そこら辺を見回っている
急に禄さんは動きを止め、こちらを向いた
「おい、気を抜くな。多分そこの部屋の中にいるぞ。」

自然にナイフを持つ左手に力が入ると、自分の手が震えているのがよくわかる
その振るえは恐怖よりもどちらかと言うと武者震いに近いような感じがする

「いくぞ」

禄さんが勢いよく扉を足で蹴飛ばして開ける

バンっと大きな音を立ててドアが開いた

が、しかし・・・・・・・・・そこに広がる光景は予想と大分違っていた
何故か、また死体が転がっている
しかもこれは明らかに人間のそれではない

これは・・・・・・・・・・・マーダー?

これはどういうことなんだろう・・・・・・・・・
ひどく不気味だ・・・・・・・・・

「これは・・・・・・・・・どういうことですか・・・・・・・・・?」
禄さんの方を見ると、禄さんも困惑の表情を浮かべていた
「ちょっと待て・・・・・・・・・・・・これは・・・・・・・・・・・・確か・・・・・・・・・」
ぼそぼそ独り言のように呟く声が嫌に耳の奥に入って、恐怖心を煽る

禄さんは思い出したように目を見開いて途端に顔を青くした

「そうだ・・・・・・・・・・・・・やばい!カオル、逃げるぞ!!」

「なんでですか!?」

逃げる事に意義は唱えたい気分ではなかったけど
何がなんだかわからない混乱が、禄さんに質問をさせた


「3rdがやったんだ!3rdのやつらはランクが低い仲間を殺して餌にする!!」
禄さんの口ぶりから、3rdの恐ろしさが伝わってくる
じわじわと事態のやばさが体に染み込んで、心臓が痛くなるほど、鳴ってきた


「てことは近くに3rdがいるかもしれないんですか!?」
「そうだ!早く逃げるぞ!!」
「はいっ!!」
逃げようと、今さっき入ってきた扉の方向を向いたら、視界に何かおかしな生物が目に入った
一瞬全裸の人間かと思うようなその生物は、よく見ると体中を筋が覆っていて、死体なんか比じゃないほどグロテスクだ

・・・・・・・・・・・・・・・・
体の動きが止まる
目を逸らそうとしても首も視線もぴくりとも動かせない

僕ってどうやって体を動かしてたんだっけ・・・・・・・・・・・?

その生物は目が合うと、狂ったように笑った
「キャハハハ!こんにちは、スラウターさん。」

こいつが・・・・・・・・・・・・3rd・・・・・・・・・?
ヤバイ!
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
本能が言っている
こいつは・・・・・・・・・ヤバイ

自分が息を吸っているのか、吐いているのかさえわからなくなる

「うわぁぁぁぁああ!!!」
気付いたら叫んでいた
叫ぶ以外のことが出来無そうだった

「カオルっ!!」
「逃げられるわけ無いじゃん!!」
3rdの話し方はまるで、鬼ごっこで鬼が追い詰める時のように、無邪気で、不気味だ

禄さんが先に仕掛けた
腰を低く落としたかと思うと、思い切り地面を蹴り、物凄い速さで近づいていく
「お、いいね、君」
3rdは感心しながら、近づいていく禄さんを微動だにせず眺めていた

禄さんが爪を構え、切りかかろうとした瞬間、僕が行ける!と思ったその瞬間、後ろの壁で爆発音が炸裂した

何だ!?と思って後ろを振り返ると、禄さんが壁の側でうずくまっていた

何が起こったのかさっぱりわからなかったが、禄さんがやられたことだけはわかった
「禄さん!!」
禄さんは立ち上がったが、もうすでに足はふらついており、誰がどう見ても、死に掛けだった
「カオルっ!俺が引きつける!お前は逃げろ!!」
「で、でも!」

こんな奴に禄さん一人で勝てる訳ない!
絶対に殺される!
だけど・・・・・・僕がいたところで意味があるのか・・・・・・・・・?

「俺の事は気にするな!早く!!」

「は、はい!!」

すいません・・・・・・・・禄さん!
全速力で出口まで駆け抜ける

再び禄さんは3rdに向かって突進する
「う〜ん。美しい師弟愛。感動だね・・・・・・・・・・・・だけどね」

グシャ、と嫌な音がした

肉が引き裂かれるような、嫌な音だ

「意味無いよね。キャハハハ!」


「ごふっ・・・・・・・・・・・・」
禄さんの息を吐く音とともに、ビチャリと液体が床に落ちる音がした

足を止めて、後ろを振り向くと、禄さんが宙に浮いていた
一瞬3rdの腕に跨っているのかと思ったのだが
違う
腕は腹から背中にかけて伸びている

「禄さんっ!!」
「次は君かな〜?」と言うと3rdは禄さんが突き刺さったままの腕を振るい、禄さんを地面にたたきつける
「うわぁぁぁああああ!!禄さんをよくもぉおお!!」

憎しみともなく、恐怖ともなく、ただの衝動が体を動かす

「やめろ・・・・・・カオル・・・・・・そいつは、かなう相手じゃない・・・・・・」
禄さんの声も耳には届いたが、脳には届かない


脳内は「う〜ん。威勢がいいね」と微笑んで突っ立っている、3rdの殺し方を考えるので一杯だった

3rdに向かって足を動かす
自分では最速で近づいているつもりなのだが、じりじりとしか近づけない

そうだ・・・・・・・・・心臓だ
心臓さえ刺せれば3rdだろうがなんだろうが・・・・・・・・・殺せる
ナイフを構えて3rdの射程距離に入る

今だ!!
3rdの心臓にナイフを突きたてようと振りかぶった瞬間、大きな黒い物体が顔面に近づいているのに気付いた

・・・・・・・・・・・・へ?
これって3rdの掌かな・・・・・・・・・・・
すごいゆっくりだ・・・・・・・・・・・・
でも、ダメだな・・・・・・・・・・
避けられない




ゴシャッ!という骨が砕けたような鈍い音があたり一面に響き渡った

禄が必死にカオルに叫びかける
「カオル!?カオルっ!!」
カオルの返事は無い

3rdが禄の存在に気付いて近づいていく
「あれ?まだ生きてたんだ?おかしいな、ちゃんと殺したと思ったのに」

禄が3rdの方を見るとそのすぐ側に横たわっているカオルの体が目に入った
カオルの体から染み出している・・・・・・・・・・・・死の気配

もう、死んだのか・・・・・・・・・?
次は・・・・・・・・・・・・・俺・・・・・・・・・・・・?
いや・・・・・・・・・違う・・・・・・・・・・・・・
死ぬのは・・・・・・・・・俺じゃない
死ぬのは・・・・・・・・・あれだ

体が熱い
血液が硫酸になって、体中の組織を溶かしているみたいだ

ドクン

硫酸の血液が心臓に届いて、心臓を溶かしつくした瞬間
何かが、体を動かす

あれ・・・・・・・・・俺動いてる・・・・・・・・・

3rdの顔から、笑みが消えた
「お前なんで動けるの?気味悪いね。まぁいいや、バイバイ」
3rd足を蹴り上げ禄に向かって重い蹴りを放つ

・・・・・・・・・・・・・?
今、俺の体を動かしているこいつは誰だ・・・・・・・・・・・・・・?

ドゴっ!と鈍い音が、起こる
ただ蹴られた本人である禄は微動だにしない

流石に3rdもこれには驚いたらしく、目を見開いて、動きを止めた

禄はそんな3rdを気にせず、落ちているナイフをじっと見つめている

あ・・・・・・・・・・・・・・・これ・・・・・・・・・・・・カオルのナイフだ
禄はしゃがんでそれを拾う

何で俺は手にとっているんだ・・・・・・・・・?
変だな・・・・・・・・・?
俺武器なんか使ったことないのに・・・・・・・・・不思議としっくりくる


「・・・・・・・・・・・・・・・」禄は無言で3rdを見つめている

3rdはびくりとしたが「死ね!!」と言い放つと、またしても蹴りを繰り出す

その蹴りは確かに禄の体に当たる
ただ、禄はびくともせず、歩くような速さで、徐々に3rdに近づいていく

「死ね!死ね!!死ねよ!!!」
何度も3rdは禄に蹴りを繰り出すが、禄の進行をとめる事は出来ない

禄が3rdの体に触れれるくらいまで近づいた、と思った瞬間
突如悲鳴が部屋に木霊する

「ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

3rdはすでに十数片の肉片となっていた

今、3rdを切り刻んだのは・・・・・・・・・俺か・・・・・・・・・?

「・・・・・・・・・・・・」
禄は3rdを切り刻んだ後、横たわっているカオルを無言で見つめている

おい・・・・・・・・・待てよ!
まさか・・・・・・・・・やめてくれよ!



禄はカオルに無言で近づく
自分の足が勝手に動く恐怖が禄を一杯にする

おいっ!待てって!そいつは仲間だ!!殺さないでくれ!!
・・・・・・・・・・・何で勝手に動くんだよ!!

カオルの側まで来た時、壁に掲げられている鏡が目に入る
一瞬でしか無かったが、見た瞬間、恐ろしさで一杯になった
返り血と自分の血で、血だらけの体と、生気の無い目
まるで血だらけの人形のような・・・・・・・・・・・・・・

横たわっているカオルが目に入る
禄はじっと身動きをしない、カオルを見つめて、ナイフを持つ右腕を動かす

おいっ!!頼むから止まってくれ!!頼むから・・・・・・・・・

禄は必死に自分の体を止めようとする

が、禄の体は禄の意思とは無関係にカオルに向かって右手を振り下ろす


止まれぇぇえぇぇえぇえええぇ!!
自分のすべての意思を総動員して、右手を止めようとする

グッ・・・・・・・・・・・
禄の右手は止まったが、まだカオルの肉を切り裂こうともがいている

よし・・・・・・そのままだ・・・・・・・・・
止まってろ・・・・・・止まってろ・・・・・・・・・

ナイフを地面に落とした
その瞬間、全身の力が抜ける


・・・・・・止まっ・・・・・・た・・・・・・か・・・・・・・

そのまま禄は気を失ってしまった

薄れゆく意識の中で禄は自分の中の新たな存在を感じていた




2007.10.07 20:00 | 未分類 | トラックバック(-) | コメント(-) |
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